またもや選挙の話題になるが——
「賃金を上げます」という言葉を聞くたびに、どうにも違和感が残る。
民主国家である日本において、政府が直接賃金を上げることはできない。
政府ができるのは、せいぜい間接的な環境整備までであり、
仮に賃金が上がる結果が生まれるとしても、相当な時間を要するはずだ。
それにもかかわらず、
「私たちは賃金を上げます!」と断言する。
これがどうにも不思議でならない。
賃金が上がらない本質的な原因は、
企業が投資先を決めきれないことに連動しているのではないだろうか。
賃金は、言ってみれば「人への投資」である。
もし投資先が明確であれば、賃金引き上げは競争力強化に直結する、
もっとも具体的で、もっとも効果的な投資になるはずだ。
だが、投資先が定まらなければ、思い切った判断はできない。
しかも、この投資先は単なる事業領域レベルの話では足りない。
必要なのは、事業プロセスの中で、どのジョブに投資するのかを具体的に特定することだ。
それは明確な正解があるものではなく、
各企業の戦略的な枠組みの中で仮説として設定される性質のものに近い。
この仮説が定まれば、腹を据えて投資することができる。
それが戦略の実行そのものになるからだ。
「なんとなく強化したい事業領域」に対する投資では、
競争力は生まれない。
ジョブレベルまで分解し、定義する経験がなければ、
結局は従来通りの“全体の底上げ”にとどまり、
競争力の源泉にはならない。
ジョブ型人事やリスキリングがうまく機能しないのも、
突き詰めれば「人に何を求めるのか」という定義が甘いからだろう。
この点こそが、賃金が上がらない本質的な要因ではないかと考えている。
“It’s the economy, stupid.” という言葉がある。
結局のところ、これは経済の問題だ。
政府も企業も、「賃金を上げる」という事後の結果にフォーカスするのではなく、
賃金を上げる原資を、いかにして生み出すのかという事前の策に、
もっと目を向けるべきではないか。
——そんなことを考えた、選挙期間だった。