製品や事業が成熟していくと、開発要素は必然的に細分化されていく。
初期段階ではシンプルに統合されていた機能も、改良を重ねる中で専門に分かれ、個別の要素として管理・最適化されていく。
この細分化は効率化や高度化を生む一方で、事業の成熟とともに各要素は独自に深化を遂げる。その結果、顧客価値との間に「ズレ」が生まれる。要素単位では進化していても、全体としての体験や利便性が顧客ニーズに合わなくなるのである。
ここで必要になるのが、システム全体のアーキテクチャーを見直す視点だ。
細分化した要素をどう再統合し、新しい構造を設計するか。これは単なる技術的整理ではなく、顧客価値を再定義する作業にほかならない。
顧客は部分要素として価値を感じるのではなく、システム全体として価値を感じるのだ。
例えば、自動車産業においてはエンジン、駆動系、電子制御などがそれぞれ深化してきたが、EV化の流れはアーキテクチャ全体を見直し、要素の関係性を組み替えることで「静かでクリーンな移動体験」という新しい価値を生んだ。
あるいは、スマートフォンがカメラ・通信・ソフトウェアを一体化したように、細分化要素を再構築したアーキテクチャが新たな顧客体験を切り拓いた。
つまり、細分化は避けられないが、それ自体は顧客価値を保証しない。
むしろ細分化が進んだからこそ、アーキテクチャの再設計を通じて要素の関係性を組み替え、顧客にとって意味のある全体像を再構築することが重要になる。
成熟に直面した企業に求められるのは、要素の深化に没頭することではなく、アーキテクチャを見直し、そこから新しい顧客価値を描き出す力である。